Exhibition ”Cultivating successive wisdoms”

/展覧会「200年をたがやす」  2021

展覧会の会場である秋田市文化創造館は、秋田県立美術館として1966年に竣工。2013年の美術館の移転に合わせて1度閉館したが、耐震補強・改修工事を経て、2021年に秋田市文化創造館としてリニューアルオープンした。

 

 

2021年3月にオープンした秋田市文化創造館で開催される「生活と表現が交わる広場としての展覧会「200年をたがやす」に建築家として参画し、空間設計及び「パブリック・リニューアル・ラボ」の立上げとその運用を実践したプロジェクトである。

展覧会の舞台となる建築は、2013年に秋田県立美術館としての役目を終えた後、市民を中心とした保存運動の末に解体を免れ、秋田市文化創造館として生まれ変わった公共文化施設である。柿落としとなる「200年をたがやす」は、秋田市文化創造館の目指す未来に呼応すべく計画された展覧会である。
「かつて美術館だった」という歴史をどのように受け取り、地域における新たな公共文化施設としてどのような態度を表明すべきかを展覧会というかたちを借りて模索する試みであった。

展覧会の理念と概要について、全体監修の服部浩之氏のテキストを引用したい。

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「土壌をたがやし、他者との親交を深め、新しい物事を生む場所」としての文化創造館を拠点とした展覧会では、特定の分野のみに特化するよりは、通常は同居しないような幅広い活動や表現が集まる場を作りたいと考え、異なる専門性をもつ人々とプロジェクトチームを形成した。生活・産業、食、工芸、美術、舞台という5つの分野を立ち上げ、各分野で独立したプロジェクトを各々展開した。5つの分野の活動は度々交わり、不思議な化学反応を起こすこともある。

(中略)

そしてこの展覧会の大きな特徴に、「つくる」と「みせる」の二会期による構成がある。
「つくる」は、試行錯誤する制作過程を公開し共有する場だ。作品・資料の保存収集や管理と展示公開が主要な活動となる美術館や博物館とは異なり、人々が活動をつくる現場である文化創造館では「つくる」をひらくことにこそ意義がある。つくる現場なので非決定や未解決に溢れる日々で、この期間の全体像は見えづらかったと思う。しかし、つくる環境としてのこの場所の可能性を探求するうえで意義ある日々であった。

そして「みせる」では、「生活と表現が交わる広場としての展覧会」という側面を強く打ち出した。他者と議論を交わすアゴラ、友人とお茶をのみピクニックを楽しむ公園、または酒を交わし対話を重ねるパブ、ときには俗世の雑事から逃れるアジールなど、ヘテロトピアと言えるような様々な人が自由に居られる広場のような展覧会。

美術作品もあれば、食のレシピもある。古い資料があれば、ものづくりに勤しむ人もいる。
議論が交わされる隣には人々から手渡された工芸品が集まる。工芸品制作過程の材が多数集合し、アートスペースのアーカイブや研究活動を深める人がおり、伝統芸能の調査や記録が公開され、舞台公演が起こる。施設内はどこも飲食が可能で、美術作品のすぐそばにはブランコが設置され、巨大空間を斜めに切り裂く2.5階の仮設階段が出現する。作品だけでなく、ものや装置、空間の設え、そして人が混在する。ここでどう過ごすかは、来訪者におおくが委ねられている。もちろん展示物を鑑賞するもよし、ワークショップに参加したり、工作をしてもよい。あるいはブランコに佇み、机で勉強をしたりご飯を食べたり、ただ寝転がりのんびり過ごすもよいだろう。なにか私たちでは思いつかないような使い方、遊び方を発見してくれる来訪者が生まれることを期待する。

(中略)

かつてヨーゼフ・ボイスは「すべての人は芸術家である」と表明したが、これを真正面から受け止め、誰もが滞在し創作が可能なシチズン・イン・レジデンスとでも言えるような場所に文化創造館が育ってほしいのだ。文化(や芸術)の生産者は誰か、真剣に問い直す時期だと思うし、新たな態度を表明する場所が待ち望まれている。「200年をたがやす」は、このような地盤を少しずつたがやし、土壌を肥やす第一歩である。

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プロジェクトベースの試行を思わせる他分野の共創の枠組みに対して、建築という分野も、「パブリック・リニューアル・ラボ」というプロジェクトを立ち上げて、その枠組みの只中に入り込む参加手法をとった。
ラボの実践を以下に整理する。

「つくる」について
1.海法設計リモート分室
期間が始まるにあたり、会場の一画に海法設計リモート分室を設置し、館内の様子を常時観測できるようにした。同時に東京の海法設計の様子も会場から観覧できる相互観察の仕組みを構築した。

2.再生産可能な什器の提案
展覧会の什器は、既成品の備品や「つくる」期間中のキュレーター陣のDIY、展覧会終了後に増える什器たちと常に相性の良い風景が生まれるように、県産材の杉、ラワン合板の入手しやすい材のみを利用し、作り方が分かる単純な作りとした。また接着剤等を極力使用せず解体・再利用を容易にした。

3.FFEのアドバイス・提案
展覧会の什器や設えを見据えながら、文化創造館のFFE選定のアドバイス・提案を行なった。

「みせる」について
4.生活と表現が交わる広場の設計
「つくる」の期間に日々進行するキュレーターやアーティストの活動の様子や、来館者や創造館スタッフの過ごし方を把握して「みせる」の期間の空間設計につなげた。アーティストの表現自体が生活の一部であること、市民の日常生活も表現につながっていること。生活と表現という両者が交わる広場として、その重なりしろを最大化する空間にした。

5.広場の鏡事
壁面に大きく横たわる鏡は、かつてこの壁に展示されていた藤田嗣治の『秋田の行事』と同じ位置に同じ大きさで配置されている。藤田の『秋田の行事』は秋田市の商人町・外町の祝祭と日常が描かれた365×2050cmの大作。一方でこの大きな鏡は生活と表現が交わる広場としての展覧会「200年をたがやす」の風景そのものをリアルタイムで映し出す。鏡に描かれた風景は、来館者が生きる『秋田の行事』の現在であり、これからでもあることを意図している。

6.気づきと名付け、そのいたちごっこ
「つくる」の期間中に密やかに観察を繰り返し、コツコツと気づきを重ねてきた来館者の過ごし方の観察記録。その記録をもとに、さまざまな居場所に名前を付けた。誰かが発見した場の可能性を拾い上げ、名付けることで共感してもらい、その場所をみんなで支えていく取り組みである。

7.200年の橋
A1ホールの大空間の中心を貫くように横断する仮設の構築物は、2.5階の高さに浮かぶように作られた新しい床である。2.5階の床は、美術の鑑賞体験をより複雑にし、既存階との距離感を多様にし、鏡に映る自分に向き合う瞬間も生み出す。橋の下には美術や工芸の展示物以外に、ブランコ、ベンチ、テーブル等の人の居場所がささやかに並び、礼拝堂を思わせる天を仰ぐ空間の足元に、身体の拠り所の集合体を横たえることで、空間と身体の宿命的なスケール差を調停することも意図している。

8.ラボ・トークとアーカイブ化
服部浩之氏とともに毎回ゲストを招き、公共性について議論を展開する。トークはzoomウェビナーで配信され、後日アーカイブ化される。

 

建物名称:秋田市文化創造館
所在地:秋田県秋田市千秋明徳町3-16
竣工:1966年12月(秋田県立美術館,1967年5月オープン)
閉館:2013年(秋田県立美術館移転)
再開館:2021年3月(秋田市文化創造館,改修工事済み)
敷地面積:6789.17㎡
建築面積:1748.93㎡
延床面積:2953.75㎡(1F:1198.57㎡、2F:1219.90㎡、3F:535.28㎡)
規模:地上3階
構造:RC造
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展覧会「200年をたがやす」
会期:
オープンスタジオ期間「つくる」:2021年3月21日(日)〜6月18日(金)
展示期間「みせる」:2021年7月1日(木)〜9月26日(日)
主催:秋田市
企画・制作:NPO法人アーツセンターあきた
協力:ココラボラトリー(ココラボ アーカイブ プロジェクト「ココラブ」)
全体監修:服部浩之(インディペンデントキュレーター/秋田公立美術大学特任准教授)
キュレーター:のんびり合同会社(矢吹史子)/合同会社 casane tsumugu(田宮慎)/NPO法人アーツセンターあきた(尾花賢一、島崇、藤本悠里子)
空間設計(建築):株式会社海法圭建築設計事務所(海法圭、佐藤元気)
デザイン:[グラフィック]佐々木俊(株式会社AYOND)/[ウェブ]谷戸正樹(MYDO LLC)
イラスト:丹野杏香
プロジェクトマネジメント:鈴木一絵
会場施工「つくる」:住建トレーディング
会場施工「みせる」:ミラクルファクトリー(青木一将、青木邦人、櫻井隆平、高橋和広、土方大、船山哲郎、山本将吾)
テキスタイルデザイン:庄司はるか

写真:草彅裕