MAY I START?

/May I Start? 計良宏文の越境するヘアメイク展 会場構成 2019

 

資生堂のトップヘアメイクアップアーティスト、計良宏文氏の個展の会場構成。ヘアメイクアップアーティストの公立美術館での個展開催は日本初。代表的な宣伝広告の仕事から、従来のヘアメイクの枠を超える挑戦的な取り組みまで、その全貌を紹介する展示である。「May I start?」は計良がヘアメイクを始める際にモデルにかける一言目の言葉である。

一人の作家が携わる仕事としてはあまりに多様な創作物を初めて見たときに驚きを隠せなかった。それは自身の専門領分を守りつつ新しさを追い求める作家特有の気概とは正反対の、従来の役割区分を融解すること自体を楽しむような、おおらかさと強さの共存に見えた。この展覧会は、不寛容な社会に対するおおらかさの指標として、またはいきすぎた専門分化を息苦しく感じる人たちへの希望として強いメッセージをなげかけるように思われた。

展示は大きく3つのカテゴリーに分けられ、奥に進むほど越境性が深まるようになっている。計良と協働する作家やデザイナー各々の世界観もまた力強いため、それぞれが作品の鑑賞という観点では交錯せぬよう整理しつつも、展示風景としてはひとつながりに重なって見える構成にした。順番に現れては消える協働者の世界観を横糸だとすると、計良の世界観は縦糸として紡がれていく。鑑賞者がその計良の手業の軌跡をたぐるように進むことで、緩やかにでも着実に計良自身の静かな世界観にひたっていく体験を意図した。

ヘアメイクはそもそもモノとしては刹那的で、生まれては消える宿命を背負っている。本展示では、そのようなアートの文脈と異なるヘアメイク特有の価値を展示方法としても伝える必要があった。そこで、展示空間の一部の床レベルを上げ、ヘアショーのためのステージ、作業のためのアトリエとして機能するようにした。展示期間中に計良が作業する様子のみならず、周囲を取り囲む鑑賞者も展示風景の一部になることで、鑑賞者に対しても「May I start?」という問いを投げかける展覧会の思いをかたちにしている。

◼︎展覧会概要
名称:「May I Start? 計良宏文の越境するヘアメイク」
会場:埼玉県立近代美術館(http://www.pref.spec.ed.jp/momas/?page_id=25)
会期:2019年7月6日(土)~9月1日(日)
開館時間:10時~17時30分(展示室への入室は17時まで)
休館日:月曜日(7月15日、8月12日は開館)
観覧料:一般1100円、大高生880円
撮影:水津惣一郎